導入事例
Report 01
“世界唯一”がある水族館鳥羽水族館
伊勢志摩国立公園の一角をなし、風光明媚な海岸風景、海女文化、真珠の養殖、豊富な海産物などで知られる鳥羽市。観光シーズンには多くの人で賑わうこの街で、60年以上の歴史をもつのが鳥羽水族館です。大都市圏から離れた立地ながら、飼育する生きものの種類や数、展示方法にさまざまな工夫を凝らし、各種の水族館ランキングでも常に上位にランクされています。今回は、鳥羽水族館の飼育研究部長である三谷伸也さんに、水族館の「ろ過」についてのお話をうかがいました。
満足度ランク上位の水族館を、縁の下で支えるパワーハウス
ー 水族館では、どうやって水をきれいにしているのですか?
三谷さん:来館者から見えないバックヤードにろ過槽を設置して、展示水槽の水をろ過槽に送って汚れを取りのぞき、きれいになった水を再び展示水槽に戻しています。概念的には、家庭用の水槽で行なっている外部ろ過と同じです。ただその規模がちがいますね。
ー ろ過材は何を使っていますか?
三谷さん:大水槽では砂を使っています。ろ過槽の底に、異なる大きさの砂粒を層状に、約60cm敷き詰めています。我々が小型から中型と呼んでいる水槽、2〜3トンから20〜30トンの水槽も、一般的には砂を使います。しかし当館では、波の水槽やサンゴ水槽などの展示水槽、バックヤードの予備水槽を含めた小〜中型水槽のほとんどでパワーハウスのろ過材を使っています。
パワーハウスがメンテナンスの手間を
軽減。“本業”にも良い効果が!
ー 水槽の大きさでろ過材を使い分けているのはなぜなんでしょう?
三谷さん:コストですね。大水槽は大量のろ過材が必要なので、コスト的に安い砂を使います。そして、ろ過槽に逆洗装置といわれる装置をつけて、自動で汚濁物を排出しています。一方小型から中型の水槽は、逆洗装置をつけるとコストに見合わない。かといって今まで通り砂を使うとなると、汚濁物で詰まってきた時に、砂を洗わなければならず、それがすごい重労働。というわけで砂は使わずに、パワーハウスのろ過材を使っています。
ー 人力で掃除するんですね!?
三谷さん:そうなんです。私が当館に入った1989年は、まだ旧水族館だったんですが、砂の洗浄が新入社員の仕事でした。ろ過槽に入って、スコップで重い砂をヨイショと外に出し、それを外に並んだ人間がバケツリレーするわけです。そして洗った砂を再び運んで、ろ過槽に入れる。昔は大水槽のろ過槽も全部、人力でやっていました。
ー スタッフの方には、業界主催の水槽ディスプレイのコンテスト優勝者もいらっしゃるとのこと。水草栽培のコツはスタッフさんに聞けば、間違いなしですね。
三谷さん:そうなんです。なるべく扱いやすくて、軽くて、そんなにメンテナンスがいらないろ過材が欲しいというところに、パワーハウスが合致したんです。我々の本業は生き物の飼育なので、できるだけメンテナンスの手間を減らして、その分動物の観察や管理の時間に割かなくてはいけないんです。
ー ろ過材にコストが掛かっても、効率はすごく良くなったわけですね?
三谷さん:そうですね。最終的には得をしていると思います。やっぱり飼育係が楽になるということは、仕事の効率が上がるということなんですね。精神的にも肉体的にも負担が軽減されたので、長い目で見ればプラスに働いていると思います。それだけ生き物に気をつかえますしね。
水族館のろ過材が、パワーハウス市販品と同じ性能 !?
ー パワーハウスのろ過材には、水族館専用のものがあるのでしょうか。
三谷さん:最初に実験的に使ったときは、市販の製品と、中身はもちろんパッケージも同じものでした。現在は、大量に仕入れる水族館用に、低コスト品(現在のベーシック品)を提供してもらっていますが、性能は市販されているものと同じです。
ー どんな水槽でパワーハウスを使っていますか?
三谷さん:伊勢・志摩の魚を展示している「波の水槽」と、その隣のイカが泳ぐ水槽のろ過材は、パワーハウスです。2つの水槽で合計31トンの水をパワーハウスのろ過材を入れた一つのろ過槽できれいにしています。それと、30トンの容量がある「サンゴ水槽」のろ過材もパワーハウスです。また、バックヤードで出番を待つ魚の水槽や繁殖用の水槽など、小〜中型水槽のろ過材は、そのほとんどがパワーハウスです。
ー 水族館は見た目もきれいにしなくてはいけないと思うのですが、やはり水にはすごく心を砕くのでしょうか?
三谷さん:アシカやラッコなど、海獣の水槽ではそうでもないです。海獣は肺呼吸なので、多少硝酸値やアンモニア値が高かろうがまあ生きられます。でも、魚はそうはいきません。
ー それはなぜでしょうか?
三谷さん:水中に溶け込んでいる酸素を取り込んで呼吸するえら呼吸をしてますからね。それに、肌荒れというか「水あたり」というのがあるんです。ここは海沿いにあって外海水をふんだんに使えますので、比重さえ気にしておけば、海水魚のろ過についてはあんまり神経質に考えなくてもいいんです。けれども、淡水の場合は、ろ過がとても大事です。
ー pH調整の面ではどうですか? たとえば、日本の魚とアマゾンの熱帯魚では、なにか変わるのでしょうか?
三谷さん:日本の海のpH値は比較的高いアルカリ質ですから、日本産の海水魚の水槽はアルカリ性に傾くようにしています。アマゾンの熱帯魚の水槽は微酸性にします。実はどんなpH値でも、飼っているうちに魚は慣れるのですが、そこに新しい魚を入れると、pHショックを起こしてしまう。小さい水槽なら一時的にpH値を上げ下げして、pH合わせをする手法もありますが、水族館のような大きい水槽ではそれが不可能です。そんなとき、pH値の変動を抑制する機能があるパワーハウスを使って、ほどほどの水質になるようにしています。とはいえ、パワーハウスにpH値の厳密な調整を期待しているのではなく、ある程度安定させてくれて、変化するにしても急変せずにじわじわ変わるような効果を期待しています。
ー 三谷さんご自身も、パワーハウスの効果は実感されていますか?
三谷さん:そうですね。パワーハウスのろ過材だけで生き物が生きているわけではなく、いろいろなシステムの中で初めてパワーハウスも活きてくる。だから、パワーハウスだけがとんでもなくいいねという話ではなくて、より自然な考え方で「悪くないろ過材」だと思います。
パワーハウスは、生きものに対する観察眼も磨いてくれる !?
ー では、ろ過材をパワーハウスに替えて、良くなかった点はありますか?
三谷さん:掃除のタイミングを計るのが難しくなりました。砂を使っていたときは、だんだん汚れてくると砂の層の空隙がなくなり、層の高さが低くなってくるんです。だから、掃除のタイミングが判断しやすかった。けれど、パワーハウスだと、空隙が埋まっても、かさが減ることはないので、汚れたのかどうかがわかりにくいんです。
ー ではどうやって掃除のタイミングを知るのでしょう?
三谷さん:飼育員の観察眼が頼りになります。生き物のエサ食いのようすなどをちゃんと見て健康状態を常に気をつけていないと、水の汚れが原因で弱っていることに気がつかない。水質は計っていますが「でもなんかちょっと生き物のようすがおかしい」という感覚が大事。そういうときにまず疑うのは、ろ過槽です。基本的なことですが、観察力を発揮して、掃除のタイミングを決めています。
ー そうすると、飼育員さんのレベルも上がっているのでしょうか?
三谷さん:それはないと思います(笑)。でも、1955年に当館がオープンしてからずっと、「生き物をよく見なさい、そしてよく考えなさい」と言われ続けています。そして、何か調子が悪いことがあったら原点に戻りなさい、と。もうリタイアしていますが、ある先輩は「常に考えておけ」、「まだまだ観察が足らん」、「古ぼけた観光地の一施設にならんように…」など、いろいろ小言を言って帰られます(苦笑)
個性的な生きものたちがお出迎え?
ー では最後に、鳥羽水族館の見どころを教えてください。
三谷さん:はい。当館は飼育種類数が1,200種で、日本一を謳っています。水族館の規模は大きくないですが、1,200種を保とうと言うことでやっています。その中でも、やはり鳥羽水族館ならではというと、日本ではここでしか飼育していないジュゴンです。アフリカマナティーも飼っていて、マナティーとジュゴンが両方とも見られる水族館は、世界でもここだけです。さらにスナメリなどの小型イルカ類は、常に繁殖をしていますので、お腹の大きいお母さんイルカがいたり、赤ちゃんイルカがいたりすることが多いと思います。また、かつてのラッコブームを生みだして、ラッコが脚光を浴びるようになったのは鳥羽水族館からなんですよ。
深海の生き物も見どころの一つです。エサを食べないことで話題になったダイオウグソクムシは、「ああ、あれね!」という感じで皆さんに言ってもらえます。また、定期的に深海底引き網の船に乗せてもらい、収集した生き物は『変な生きもの研究所』というブースで展示しています。
ー 水族館のここが面白い、こういう所を見てもらうと嬉しいといったポイントはありますか?
三谷さん:当館の施設は、動物との距離が近いんです。ガラスと通路との間に距離がなく、すぐ目の前に動物がいたりとか、水槽が低くつくってあって、真上からのぞくことができるとか、そこで一緒に写真を撮ったりとか、そういう距離感の近さを感じていただけたらと思います。
当館のように新館がオープンして30年近く経った水族館は、設備面では新しい水族館にはなかなか太刀打ちできません。じゃあうちで勝負できるところ……水槽の中身だとかホスピタリティの面を、アップしてやっていこうと思っています。わざわざ鳥羽まで来ていただいているので、少しでも楽しい思い出を持ち帰って頂けるように心がけています。
http://www.aquarium.co.jp/