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社会インフラの基盤を担う使命のもと、
グローバルでの成長と、持続可能な社会の
実現への貢献を目指します

代表取締役社長
田浦 良文

社長就任1年目を振り返って ─ 価格改定の浸透による業績改善の1年

 2024年度は私にとって社長就任1年目であると同時に、「26中期経営計画」(26中計)の初年度でもありました。この1年の大きな成果として挙げられるのは、国内セメント事業の価格改定の浸透による業績の改善です。国内事業は2022年度に石炭価格の高騰を受けて収益が大幅に悪化していましたが、価格改定が奏功し前中計最後の2023年度に立て直しへ一定の道筋がつきました。さらに2024年度も業績改善が続き、連結では1998年に太平洋セメントが発足してからの最高益を達成しました。2年連続の収益拡大は、業績が一時的に回復したのではなく、商習慣として従来は困難だった値上げによるコスト転嫁が可能なシステムに変わったことを意味します。これは非常に安心できる変化でした。国内事業の業績改善は従業員の士気にもつながっていると感じています。

企業価値最大化の「戦略」を支える「人材」

 当社グループは企業価値最大化に向け、「収益性の向上」と「成長性の追求」の観点から、「グローバル戦略の更なる推進」「国内事業の再生」「サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献」を3つの柱とした戦略を立て、26中計の目標達成に向け全社一丸となって取り組んでいます。
 戦略の効果を最大化するために最も重要なのは、人材への投資であり、従業員一人ひとりのやる気、そして皆が同じ方向を向いて努力することです。「全員が一緒に前進すれば、成功は自ずと手に入る」とヘンリー・フォードも言っています。
 私は従業員のやる気を引き出すためには「エンゲージメント」と「インクルージョン」が重要と考えています。エンゲージメントは一言で表現すると会社に対する思い入れですが、そういった思いはそれぞれの現場や職場において、すべての従業員が尊重され活躍できるインクルージョンの環境があってこそ生まれるものです。だからこそ、両者の関係はコインの裏表であると考えています。
 会社は従業員を尊重する環境を用意し、これに対し従業員が会社の存在意義や方向性に共感し行動することで、会社全体で力をあわせた結果が利益や成長につながります。そこで重要になるのは、やはり直接の対話をしたり意見を聞いたりすることです。従業員との対話はこの1年で精力的に取り組んだことのひとつで、全国の工場や支店など27カ所をめぐりミーティングの機会を設けました。そもそも、私の仕事に対するモットーは「明るく楽しく元気よく」です。従業員を元気づける方法を常に考えていて、ミーティングもその一環です。

セメント産業の社会的責任と「7R+1T」

 従業員との対話では、思い込みにとらわれず、データや事実に基づき事象を読み解く習慣、つまり「ファクトフルネス」の観点から、当社グループが考慮すべきコスト増要因を分析して「7R+1T」という形でまとめ、価格維持の大切さを伝えています。「7R+1T」は、7つのリスク(Risk)と1つの脅威(Threat)を総称したものです。「7つのリスク」は、①国内市場の縮小による生産量の減少、②石炭価格の変動懸念、③環境コストの増大、④資源の確保、⑤設備の老朽化、⑥人手の確保、⑦国家間の関係・地政学リスクなど国際情勢の変化です。さらに「1つの脅威」として、激甚災害や巨大地震への備え・レジリエンスの確保といった、日本に対してかかる脅威を挙げています。
 例えば脅威として挙げている激甚災害や巨大地震ですが、復旧復興にはがれきの処理やセメントが必要となります。「国内需要減に応じて工場も閉鎖すべき」というご意見もあるようですが、セメント産業が縮小してしまっていると、工場でのがれきの受け入れやセメントの供給ができなくなってしまいます。当社グループではセメント1トンをつくる際に413キログラムの廃棄物・副産物を処理しており、公衆衛生の維持や廃棄物の最終処分場の延命など重要な役割を担っています。東日本大震災の後、当社の大船渡工場ではおよそ100万トンのがれきを処理しました。当社は経営理念として「持続可能な地球の未来を拓く先導役をめざし、経済の発展のみならず、環境への配慮、社会への貢献とも調和した事業活動を行います。」と掲げています。いつ起きてもおかしくない脅威に備えて、国内工場を維持することは脅威に対する備えであり、社会への責任でもあると考えています。無論、防災グッズのように「いざというときだけ役に立つ」、では困るわけで、むしろ備蓄水のローリングストック(防災用の備蓄水を平時に古いものから消費して新しいものを備蓄に回す方法)と同じで、平時から役に立つ、つまり利益が出ている必要があり、7つのリスクも織り込んだ価格の維持が大変重要となってくるのです。
 「彼を知り己を知れば百戦殆からず」といいます。今述べたような事実認識を、価格交渉に臨む国内セメント事業に携わる担当者だけでなく、全従業員に深く理解してもらいたいと考えています。セメント産業の社会的責任に共感することが、従業員のエンゲージメントにつながり、現在取り組んでいる価格政策をはじめとした各種戦略に納得感をもって「明るく楽しく元気よく」取り組めるようになると思います。実は、今年度に入り行われた従業員のエンゲージメントサーベイの分析結果で「会社の方針や事業戦略への納得感」が強みとして評価されました。力を入れてきた従業員との対話の効果の表れであると非常に嬉しく感じました。26中計のコンセプトである「3D Approach for Sustainable Future」では、私が「国内リバイバルプラン」と呼んでいる「国内事業の再生」を3つの柱のひとつとして掲げました。従業員への働きかけはその重要な手段のひとつです。

太平洋セメントの成長性 ─
グローバル事業の深化 × 事業ポートフォリオ多様化でさらなる成長を追求

1. グローバル戦略

 国内のセメント需要のピークは1990年の8,629万トンです。当時の世界全体の需要は12億トンで、日本は1位である中国の2億トンに次ぐ規模でした。それが現在では世界の需要が40億トンに拡大する一方、日本は3,266万トンでピークの3分の1ほどにまで縮小しつつあります。こうしたデータから国内のセメント需要の減少は否めませんが、グローバルで見るとセメントは成長産業といえます。この需要を捉えるべくグローバル戦略に引き続き注力します。
 目下注力しているのは混合セメントの輸出です。石炭火力発電所から排出されるフライアッシュという石炭灰を用いて製造する混合セメントの輸出を推進していますが、これは生産部や輸出を手がける海外部門だけでなく、電力会社とのやり取りを担う環境事業部、原料や生産に関するリサーチでバックアップする研究開発本部と、あらゆる部署が関与しています。こうして製造されるFA(フライアッシュ)混合セメントは利益率も高く、仮に国内のセメント需要が2,800万トンになっても、FA混合セメントの輸出を増やすことによって既存工場のフル稼働を維持できると見込んでいます。混合セメントは当社グループの収益源、国内工場稼働維持、カーボンニュートラル推進の手段として大きな意味を持ち、また輸出先であるアジアの国々にも高品質な製品を供給できるだけでなく、産業廃棄物の処理先・激甚災害時のがれき処理手段・ベースロード電源である石炭火力発電の稼働などが確保されることで、生活者や電力会社にも貢献できる、いわば「四方よし」の取り組みです。
 当社グループの重点地域である米国は、2024年の大統領選あたりから需要が弱まった時期もありますが、ベースとしては非常に良好な市場環境が続いています。背景にあるのがバイデン前政権のときに打ち出されたインフラ投資法で、その予算の効果がどんどん出ているところです。2028年にはロサンゼルス五輪もありますので、引き続き需要拡大に期待が持てます。米国では、Z世代などに、人口が密集して建設費用も高いカリフォルニア州を離れ、例えばアリゾナ州で比較的安価に家を建てようという動きがあります。一方でカリフォルニアが空洞化するかというと、人口流入は続いており、変わらず旺盛な需要があります。米国子会社の社長によれば今年の下期からまた需要が拡大する見通しであり、引き続き堅調に推移すると見込んでいます。
 東南アジアでは、例えばインドネシアは、首都機能の移転も進み需要増が見込める一方、地理的には火山国で地盤が弱いという特徴を持っています。同国内では地盤強化に必要な固化材の供給力が弱いため、資源や建材・建築土木など関連領域まで展開している当社グループの総合力を生かした技術移管も検討しています。
 東南アジアの次の進出先の候補も検討し始めています。新たな市場に進出するにあたって最も大事なのはパートナーの存在です。パートナーがしっかりしていて、成長を期待している、新しい技術を欲しがっているという国・地域と組むということが重要です。もちろん言語的・文化的な課題もありますので、現地でエンジニアリング事業を手がけるグループ会社の協力をえるなど、詳細な調査を行いつつ新しい投資の可能性を探っているところです。
 グローバル戦略を担う部門は、今年4月の組織改定で「グローバル事業本部」に改称しました。国内事業が重要なことはもちろんですが、日本も含めた全世界を対象に部門の方向性を示していくという意味があり、所属する若手従業員が中心となって声を上げて名前も考えてくれました。

2. カーボンニュートラル戦略

 カーボンニュートラルは当社グループにとって中長期的な成長戦略の要です。総合戦略の策定・推進を担うGX推進部、CO2回収型セメント製造設備である「C2SPキルン」の技術確立を専門とするプロジェクトチームを新設しました。カーボンニュートラルへの取り組みは、行政の支援を得ていることに加え、当社グループの社会的責任の観点からも、必ず実現したいと考えています。
 C2SPキルンは我々にとっての「アポロ計画」だと考えています。アポロ計画の開発費用は現在の円換算価値で約14兆円、月面着陸を果たしたアポロ11号だけでも6,000億円がかかったといわれています。ところが現在でははるかに安価な費用で宇宙に行くことができるようになりました。最初のイノベーションは多大な費用を要しますが、商業化されてからは費用がぐっと下がっていきます。さらにアポロ計画は月の石を持ち帰っただけでなく、通信技術やロケットエンジン・ジェットエンジンの開発技術、耐熱タイル、コンピューター、通信技術、ジッパーにいたるまで、様々な製品の技術向上に大きく貢献しました。我々のC2SPキルンもCO2回収だけでなく、耐熱技術、熱交換技術、深冷分離など幅広く技術の横展開をもたらすものです。だからこそ、このイノベーションは絶対にやり遂げると社内でも言っています。

3. セメント事業に依存しない事業の育成

 これまで当社グループの事業ポートフォリオはセメントのバリューチェーンを中心に展開してきましたが、今後はセメント事業に依存しない事業の育成にも注力していきます。例えば環境関連の新規ビジネスには次なる成長の柱としての可能性を感じています。当社グループの環境事業は、セメントキルンを活用した廃棄物処理が中心でしたが、水処理やPFAS(有機フッ素化合物)対策などの分野における新興企業への投資といった、従来の枠を超えた多様な分野への展開を見据えています。社外の技術力ある企業とも積極的に連携し、資金やノウハウを投入することで、10倍・100倍と成長する新しいビジネスの芽を育てることにも注力します。環境ビジネスはそれ自体に社会的価値があるだけでなく、事業の多様化と持続的成長につながることが期待できます。

投資家の皆さまへの還元・対話の方針

 26中計では総還元性向33%以上という数字を掲げました。一株あたり年間配当金80円以上、機動的な自己株式の取得という方針もふまえながら、株主還元のお約束を必ず達成すべく経営に取り組んでいます。実際、今年度は一株あたり年間配当金100円を掲げています。一方で、私は短期の成果と長期の成果、両方のバランスをとることが大事だと考えています。足元は業績が好調ですので配当性向についてはなおご意見をいただくこともありますが、現在様々な投資を行い、利益に結びついているところですので、今中計を通じてさらに体力のある会社になったときに自己株式の取得も含めて上積みを図っていきたいと思います。
 投資家の皆さまとの対話の機会も積極的に設けていきます。決算説明会では30分ほどしか時間をかけることはできませんが、もっとじっくりとご説明差し上げたいと考えています。「3D Approach for Sustainable Future」にも、「サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献」としてカーボンニュートラル、DX、人的資本と並んでIR戦略を盛り込んでおり、個人投資家や当社にご関心のある皆さまの目に触れる機会も増やすような方策も検討していきたいと考えています。
 当社グループは「2050年のありたい姿」として、「世界のセメント産業のリーダーとなる」を掲げました。それを実現するためにも、長期保有いただいている海外投資家や大口投資家との面談にも力を入れています。当社の株主の4割は海外の投資家で、比率が非常に高くなっています。グローバルスタンダードの厳しい目にさらされることで我々も鍛えられ、当社が目指す「ありたい姿」に近づいていくと信じています。

最後に ─ 事前復興元年に込められた思い

 太平洋セメントグループは2025年を「事前復興元年」と位置づけており、災害発生前から復興に備える視点でのインフラ整備やまちづくりに注力していきます。今年7月には「太平洋セメントグループの防災・復興技術」というパンフレットを作成・公開しており、当社グループの関連技術が広く認識され活用いただくための取り組みを推進しています。「事前復興元年」という言葉は、セメント産業が社会の根幹を支える使命を再認識し、次の時代へとその意義をつなげていく強い決意の表れです。日本は南海トラフ地震や首都直下型地震など、今後も大規模災害のリスクに直面し続けます。いざというとき、社会インフラの早期復旧やがれき処理、仮設住宅の供給など、私たちセメント会社の存在が不可欠であることは、東日本大震災や能登半島地震などの経験からも明らかです。だからこそ、平時から工場やサプライチェーンを維持し、事業としても健全な体制を保つことで、レジリエントな社会に貢献することが私たちの使命であり責任だと考えています。「事前復興元年」を新たな出発点とし、業界のリーダーとして社会に不可欠な価値を創出し続けてまいります。

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