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理想とするリーダー像を追求し、
太平洋セメントグループのありたい姿の実現に向けて邁進します

代表取締役社長
田浦 良文

プロフィール

1983年4月
当社入社
2017年
執行役員
2020年6月
常務執行役員 海外事業本部長
2023年4月
専務執行役員 海外事業本部長
2023年6月
取締役 専務執行役員 海外事業本部長
2024年4月
代表取締役社長(現在)

社長に就任して

Q 社長就任を決意されるまでの思いについてお聞かせください。

 次期社長にとのお話があった時は非常に驚きました。海外事業本部長として、新年度に海外事業で新たにやりたいと考えていたことがありましたし、事業担当から社長として全体を見ることになる戸惑いもありました。しかし、やらない後悔よりやる後悔、という気持ちは常々もっているので、色々考えても仕方がない、とすぐに気持ちを切り換えた、というのが正直なところです。
 入社してからの私の人生を振り返ってみても、若いころ自分はずっとエンジニアとしての道を進むつもりでしたが、急に労働組合の書記長をやることになったという経験もありました。英語でleap of faith(信念の跳躍)という言葉があります。良くも悪くも確実な保証のない事柄についてひとまず信じてやってみる、という意味です。今回もまさにleap of faithの考え方で、社長として当社グループの発展に全力を尽くしていきます。

Q 理想とする会社像とリーダー像について教えてください。

 「明るく楽しく元気よく」ですね。明るさと、楽しさと、みんなで頑張っていこうという前向きな気持ちが絶対に大事だと思います。また、座右の銘と言っていいかは分かりませんが、自分の手帳に書いているのは「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」。これは孔子の言葉として『論語』に載っている一節ですが、知る人よりは好きな人、好きな人よりも楽しんでやっている人の仕事の方が良い、という意味です。やはり「仕方ないからやる」という会社生活では面白くありませんので、明るく楽しく元気な会社にしたいと思っています。
 そして、成長のためにはみんなの知恵を結集することが大事です。ですから、私はリーダーとして議論の活性化を図ることを常に心がけています。例えば、2024年6月の株主総会に際しては、事前に役員を集めてブレインストーミングを行いました。株主総会というのは1年に1回自分の会社について徹底的に勉強する場でもあるので、まさに他部署も含めて色々な問題や課題を自分だったらどうするかと考えて発言し議論する重要な機会です。そこでは他部署のことだから発言は控えようという縦割り意識を超えて、違う視点からの切り口でモノを申すということが非常に大事です。担当でない話題のときも発言してよいという風通しの良い雰囲気をつくっていくのも私の役割のひとつです。言いたいことを言える会社でないと伸びていかないという思いで、一生懸命取り組んでいます。

Q 国内トップの専業メーカー社長として、セメント産業はこれからどうあるべきと考えていますか。

 セメントは2000年以上前にヨーロッパで誕生した素材ですが、現代になってもこれに代わるものはありません。今後も、少なくとも10年先に代替するかもしれないと考えられるような素材はありません。これがセメントという素材の最大の特徴であり強みです。我々はまさに社会の基礎、ファウンデーションを提供しており、しかも取り換えがきかない素材をつくり続けています。
 国内需要は長期的に減少傾向にあり、だから国内の工場を統廃合して需給バランスをとるべきという意見も聞かれます。しかし、社会資本となる素材を安定供給することはもちろん、近年は社会的インフラのレジリエンスという考え方が注目されています。そして、近年頻発している激甚災害といった有事の際には、一日でも早い復興のために機動力をもってセメントを供給するのが、我々の産業の使命です。その時になって「お待ちください」では迅速な復興などありえませんので、余力を蓄えておくことが必要です。
 さらにもうひとつの大事な社会的使命として、廃棄物・副産物の受け入れがあります。セメント産業では廃棄物・副産物をセメントの原燃料として有効利用しており、その量は国内全体で循環利用される廃棄物・副産物のおよそ11%に相当します。その役割を担い続けるためにも、国内工場の操業を維持することが重要です。
 ですから私は、これだけの使命を担うセメント産業が、国内需要の減少だけを見て「日本のセメント産業に未来はない」とは絶対に言えないと思っています。これから環境保全も含めた色々なコストや人件費もどんどん上がっていきます。コストアップがきちんと価格に転嫁できるようにするためには、セメント産業の地位を向上させていかないと「値上げには応じられない」で終わってしまいます。今がまさに価格転嫁できるようにする転換点にあります。そうすることで利益を確保して事業基盤が安定するようになれば、社会課題の解決に向けて投資ができ、人材も集まる、という好循環につながっていきます。
 当社にはユーザーであるお取引先、そして工場の操業を支えてくださる協力会社やメンテナンス関係の会社、製品や原料、石炭などを輸送してくださる輸送会社など、合計すると300社あまりの会社とともに仕事をしています。私の思う「三方よし」は「セラーよし、バイヤーよし、サポーターよし」です。縁の下の力持ちをこちらからも支えていくのが我々の役目だ、そういう発想を大切にしたいと思っています。今ここで我々がセメント産業の地位を上げ、会社としてきちんと利益を得て、次世代を担う人材に魅力ある存在となり、パートナー企業やそこで働く方々とも共存共栄を図り、支えていく気概をもたないと我々の未来もないのです。
 我々の産業は重要で、「無くならない、無くてはならない」という熱意をもって元気のある産業にしていきたいと思っています。

田浦社長の描く将来像

Q 2050、2030の長期ビジョンとそこからバックキャストした26中計によって太平洋セメントが目指す姿を教えてください。

 私が目指すのは、きちんと利益の出せる会社、それを投資家や株主の皆様、従業員やサポートしてくれる皆様、つまりステークホルダーに十分に還元できる会社です。従業員にとっても会社の状況や自分の処遇に満足できる、ハッピーな会社にしていきたいと考えています。 そのためには従来のように日本がメインで海外がサブというのではなく、両方が車の両輪として成長を目指さなければなりません。海外は現在米国頼みですが、フィリピンやベトナムも利益貢献ができる可能性が大いにあります。我々のノウハウやネットワーク、経験を活かせば、アジアではまだまだ増益の余地が十分にあると思います。将来的には日本、米国、東南アジア、という3つの大きな柱にしていきたいと考えています。
 最重要テーマのひとつがカーボンニュートラルであり、力を入れているのが革新技術であるC2SPキルンの開発です。既存のセメント製造設備の一部をCO2回収型仮焼炉とすることで、CO2を回収するC2SPキルンは当社独自かつ世界初の技術です。
 開発段階のため現段階では実際に設置する際のコストは見通せていませんが、飛行機や自動車など、どの分野でも最初の1台は採算にのるような話ではなかったでしょう。しかし、ひとたび技術が確立すると、大きくコストが下がって広く普及していきます。それを最初に誰かがやらないと後が続きません。それはまさに「アポロ計画」で、ひとつの革新技術開発から、他の技術開発の裾野が一気に広まっていくのです。C2SPキルンを世界標準にするという展望をもって、2030年までに開発を成し遂げます。
 一方、足元で確実にできる取り組みとしては、混合セメント化の推進があります。現在、世界では、CO2排出量が少ないこともあり混合セメントのニーズが高まっています。日本での使用比率は20%程度ですが、東南アジアやオセアニアにおいては高いところでは50%にまで達しています。今後は、これらの方面への輸出を拡大していく方針です。輸出用の生産が増えれば国内工場の稼働を維持することにもつながります。これまで輸出は国内の補完的な側面が強かったのですが、今後は成長戦略と位置づけて取り組んでいきます。

Q 昨年までの23中計の3年間をどのように捉えていますか。

 前中計はあらゆるリスクが重なった時期でした。まず、2020年に新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが起こり、年初には1トンあたり100ドル前後で推移していた石炭価格が200ドルを超えるというサプライチェーンリスクに遭い、さらに2022年にはウクライナ情勢という地政学リスクも重なり石炭価格が400ドルを超えたことは、当社のセメント事業に大きな打撃を与えました。
 こうしたパンデミックやサプライチェーン、地政学上のリスクが、またいつ、どのように起きるか分かりません。資源リスクというのもあって、中国やベトナムなど、これまで石炭を大量に輸出していた国が、資源の枯渇によって現在は輸入国に転じています。石炭というのは、最初は利益が出るため輸出しますが、埋蔵量の枯渇が迫ると産業政策が大きく変わります。自国の産業が発達してくると石炭火力発電所が必要になり、セメントや化学産業で石炭を使うようになると、輸出ではなく国内に向くことになります。資源リスク・資源危機はこれからも出てくるでしょうから、パンデミックリスク・物流リスク・地政学リスクに加えて、資源リスクへの対応が重要になります。
 23中計はそれを垣間見た、今からリスクに備えなくてはいけないという教訓をえた期間でした。そして、分散してリスクヘッジをしていくのが大事だということを学びました。23中計期間を何とかしのぎ切れたのは、過去に例のない短期間でかつ大幅なセメントの価格改定と、米国事業の大きな貢献があったからです。米国も2009年から2013年まで赤字の時代がありましたが、それが今は貢献してくれています。国内も含めセメント産業というのは域内の景気の波から受ける影響が大きいため、地域的なリスクヘッジをしていく必要があります。そうした備えができず浮き沈みが激しくなってしまうと、過大な負債を抱えたり、リストラをしたりということでセメント産業の地位も危うくなります。この期間に教訓として学んだことは本当に色々ありました。

Q 26中計で国内セメント事業はどのように取り組みを進めますか。

 国内事業の再生は26中計の重要テーマのひとつです。たしかに国内需要は数量的に楽観視できませんが、社会的な重要性が失われたわけではありません。セメントは激甚災害からの復興やレジリエンスのための供給のみならず、廃棄物処理という社会課題解決を担っていますので、踏ん張りながら操業を継続することが重要です。
 我々がこういった意識をもつことは交渉力にもつながります。セメント業界は1991年から需要が右肩下がりとなる中で、各社でシェア拡大を追求し続けてきたため、値上げを言い出しにくい体質になってしまっていました。今回の値上げを通じてあらためて分かったのは、シェアありきでなく価格の適正化によって、安定した利益を確保することができるということです。これからも石炭価格、環境対策そして設備老朽化にともなうコストなどがさらに増えると見込まれるため、価格転嫁は避けて通ることができません。現場の営業担当者には、こうした原価を理解したうえで、ユーザーとの価格交渉に臨んでほしいと伝えています。
 もちろん値上げをお願いするだけではなく、ユーザーと一緒に成長していくために、「トータルソリューション」を提案していきます。当社グループは国内に13の石灰石鉱山をもち国土強靭化にも取り組んでいます。生コンクリートの原料である骨材や砂の枯渇が世界的に懸念されるなかで骨材や砂の供給、さらには輸送問題への対応など、関連する課題や展望をトータルソリューションで解決していきます。

Q 海外は主力の米国に加え、東南アジアにおける事業拡大を掲げています。

 米国は人口規模に加え移民も多く、まだまだ成長している国です。意外なことにインフラ整備には成長余地があります。セメントを利用した社会資本の蓄積をみると、日本でセメント産業が始まってから道路や港などに使われているセメントは国民一人あたりおよそ30トンなのですが、米国はまだ18トンくらいというデータがあります。米国と言えば車社会なので道路の整備もできていそうなイメージがありますが、意外と蓄積は少ない。老朽化したインフラもにらんでニューディール政策以来の規模となる1兆ドルの法案が具体的に施行されているところなので、それによる需要もこれからどんどん出てきます。米国にはまだフロンティアが残っているというのが当社の認識です。
 今後アジアの国々が長期的に成長する蓋然性が高いというのは確信をもって言えることです。先ほどのセメント利用の蓄積で言うと、フィリピンやインドネシアはまだ6トンほどです。どちらも平均年齢が若く人口も増えており、三白景気時代の日本と同じです。ベトナムの国内需要は停滞気味ですが、ギソンセメントは米国のカルポルトランド社向けの輸出を始めてから、黒字に転換しています。まさに今こそアジアへの投資を拡充する必要があるのです。

Q 長期ビジョンを実現するための課題は何でしょうか。

 一番の課題は「人」です。私が社長になって最初に言ったのも人材の育成です。会社を支えるような実力を備えるには専門知識だけでなく、情報収集やチャレンジ精神、イノベーションに取り組む胆力といったコンピテンシー(行動特性)が必要です。将来像を掲げる2050年、つまり26年後の当社を支えるには、今、新卒で入社した皆さんにチャンスを与えて育てていかなくてはなりません。2050年のありたい姿を実現できる人材を育成しないといけないという切迫感をもって取り組んでいます。
 そのためにはダイバーシティも重要です。当社でも女性活躍推進には力を入れてきましたが、今後の課題は多国籍化です。すべてを日本人がやろうとするには無理がありますので、それぞれの国で代表となることができるような人材を育て任せる真のグローバル企業となることが必要です。一方で現地のガバナンスをいかに監督していくかは非常に難しい問題であると認識しています。
 もうひとつの大きなテーマはやはり気候変動です。当社は2050年までのカーボンニュートラル実現に取り組みながら、目の前の激甚災害の増加という事実を受け止めて、目に見えるあゆみを一歩一歩踏み出していくべきだと考えています。強靭な施設のためのセメントや建材製品の供給という、インフラへの社会的使命を果たしていきます。また、災害時に提供できる技術や商材はないのか、といったことを当社グループ全体で考えていきたいと思っています。
 また、グループ会社の屋久島電工社がある屋久島町の「屋久島町ゼロカーボンアイランド宣言」に協力することを決めました。自動車業界でも無人運転に向けたモデルタウンがあるように、当社も屋久島において再生可能エネルギー(水力発電)の地産地消の推進をはじめ、様々なことに協力する計画です。

ステークホルダーから求められているもの

Q ステークホルダーの皆様へのメッセージをお願いします。

 当社は工場や鉱山がある地元・地域社会の皆様のご理解やご協力を得ながら、企業として社会的価値の創造に取り組んでいます。近隣の皆様にご安心いただきながら地域社会の発展に貢献するためにも、当社では対話によるご説明の機会に加え、工場見学で実際の現場や品質管理の状況を見ていただく取り組みを行っています。安全・安心はもちろん、お祭りや清掃活動のような社会文化活動にも積極的に参加し、地域との共存共栄を目指しています。
 当社の株式に投資いただいている皆様には、やはり目に見える数字で示していくことが非常に重要だと考えています。ROEやPBRといった数字を改善していくことに加えて、投資家の皆様とのコミュニケーションにもより力を入れていきたいと思います。26中計では安定的な配当の継続や自社株買いによる株主還元をしながら、成長投資による中長期の企業価値向上を実現して皆様の期待に応えてまいります。

Q最後に、あらためて社長として最初の四半期をどのようにふり返りますか。

 社長として最初の四半期はあっという間だったという印象です。社長就任後、国内拠点を回っていますが、新しい発見がたくさんあります。出張先では従業員と対話の時間をとるのですが、みんな目を輝かせて、これからの成長や海外の話を聞いてくれますし、活発な議論にもなります。従業員やユーザーからの声や対話の機会を大切にしながら、特に最初の1年は各地で色々な話を聞いて、私自身も自分の考えを伝えて、前向きに頑張っていきたいですね。

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