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最初の1トンからはじまり、
この国にセメントが必要な限り
私たちはつくり続けます。

代表取締役社長
不死原 正文

 日本に初めてセメントがもたらされたのは、明治時代に西洋建築がはじまってからのことです。当時は国内でセメントをつくることができなかったため、現在の価格の100倍といった値段でヨーロッパから輸入していました。今からちょうど150年前の1873年に、官営の摂綿篤(セメント)製造所が創設されたことにはじまり、8年後の1881年に「泥土をもって国家とす」という志を抱き、民間企業として最初の1トンをつくったのが太平洋セメントです。
 そして今日まで、「セメントが儲かるからつくる」のではなく「日本に必要だからつくる」という思いからセメントをすみずみまでお届けし、国土の発展に貢献してきました。最初の1トンからはじまった「日本のセメントの歴史」は、そのすべてにかかわってきた私たち「太平洋セメントの歴史」でもあります。
 最初の1トンをつくったのが太平洋セメントであるなら、最後の1トンとなる時代が来たとしてもその1トンをつくるのも我々でありたい。「泥土をもって国家とす」を次世代に継承しながら、これからも必要とされる限りセメントをつくり続けていきます。

23中期経営計画の総括

「ありたい姿・目指す方向性」の実現に向け、
厳しい環境下でも成長投資を果敢に実行。

 23中計は、2020年代半ばをイメージした「ありたい姿・目指す方向性」の実現に向けた第3ステップと位置づけられています。本年は「圧倒的なリーディングカンパニーを目指す」ことを基本方針とした23中計の最終年度です。本中計においては、前提条件とした国内需要が減少し、さらに石炭価格の高騰などにより事業環境が大きく変化したため、経営目標の達成はハードルが高くなっている状況です。しかし、そうした厳しい事業環境の中でも成長投資を敢行し、10年前に「ありたい姿」として描いた「成長の歩みを止めない」「環太平洋において存在感のある企業グループになる」という目標は達成できたと思っています。
 また、23中計の基本方針とした「圧倒的なリーディングカンパニーを目指す」とは、当社グループの主力事業であるセメント、資源、環境、建材・建築土木を4つの山になぞらえて、それぞれの事業が複合的に機能し合うことで「太平洋山脈」を築き、事業環境が厳しくなっても堂々と耐えられる企業体質を作ることを意図したものです。異国の地で起きた戦争が、1カ月後にはエネルギー価格の高騰、為替の変動という形で日本経済を直撃するという経験を通じて、さらに強靭な企業体質を作り上げていく必要性を身に染みて感じています。

成長する米国、東南アジアに注力。
生産・供給力をつけてシェア獲得へ。

 環太平洋において存在感のある企業グループになるためには、進出先の国や地域においてシェア10%以上を獲得し、市場影響力を高めることが最も重要であると考えています。成長市場における旺盛な需要を取り込むため、生産能力や供給能力の増強投資を行いました。
 米国においては、さらなる資産買収により米国西海岸におけるプレゼンスが大きく向上した結果、現地子会社であるカルポルトランド社のカリフォルニア州におけるシェアは40%にまで拡大しました。米国ではインフラ投資政策が継続しており、今後1.2兆ドル規模の公共投資が本格化すること、2028年ロサンゼルスオリンピック・パラリンピック開催を控えていることなどから、旺盛な需要が10年程度は続くと見込んでいます。
 アジアにおいては、1980年代後半から事業を行ってきた中国からは撤退し、経済成長著しい東南アジアへのサウスダウンシフトを進めました。2021年にはインドネシアの国営企業であるセメン・インドネシアグループと資本業務提携を結び、環太平洋において新たな物流網が構築できました。このことで、早くもトレーディング事業において効果が得られているほか、2024年からは米国子会社向けに年間100万トンのセメントを供給する計画です。また一方で、同年5月には、フィリピンで子会社の生産ラインのリニューアル工事が完了します。さらに、同国の最大市場であるマニラ周辺にセメントを供給するためのターミナルの新設も決定し、旺盛な需要を取り込んでいきます。

カーボンニュートラルは最大の成長戦略。
独自開発のキルンを世界標準へ。

 カーボンニュートラルはセメント産業にとって、生き残りをかけた最重要課題であると同時に、当社にとって最大の成長戦略であると捉えています。当社では「カーボンニュートラル戦略2050」を打ち出し、2030年までにCO2排出削減の中間目標の達成とともに、カーボンニュートラルの実現に有効な革新技術の開発を完了させる予定です。以降はグループ内セメント工場へ革新技術を順次展開していく計画です。とりわけ、当社独自かつ世界初となるコンパクトな設備でCO2分離回収を可能とする「C2SPキルン」は、世界標準となることを目指して開発に取り組んでおり、技術導出といった知的財産権を積極的に活用したビジネス展開も視野に入れています。

23中計の成果と課題をふまえ、次期中計の策定に着手。

 次期中期経営計画は、長期的な「ありたい姿・あるべき姿」からのバックキャストにより、10年後にどのような姿を目指すのかを描き、策定していきます。23中計で実施した成長投資をいかに早く回収できるかが重要ですが、米国西海岸での資産買収は前年度下期から早くも効果が出てきています。このほか、インドネシア、フィリピンにおいても、旺盛な需要を取り込みながら海外事業を拡大していきます。また、2030年を年限としたカーボンニュートラル戦略の中間目標の達成に向け、加速すべきことは何かといったことにも注目して議論を重ねていきます。

中長期戦略

外部環境の変化にも揺るがない、強靭な企業体質を作り上げる。

 当社グループの売上高比率は、国内セメント事業、海外セメント事業、そして、資源、環境、建材・建築土木事業それぞれが3分の1ずつと非常にバランスがとれています。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大に続いて、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する石炭、燃料価格の高騰といった外部環境の変化によって、私たちの事業は大きな打撃を受けました。圧倒的なリーディングカンパニーになるためには、今回のような外部環境の変化にも揺るがない強靭な企業体質を作り上げることが必須と考え、以下のことに取り組んでいきます。

1. 確固たる価格政策をもつ

 石炭、燃料価格の高騰を受けて当社は1トンあたり計5,000円という、かつてなかった大胆な値上げを打ち出しましたが、それでもコストアップ分を吸収することはできず、前年度の国内セメント事業は営業損失という結果に終わりました。社会に安全・安心をお届けすることが当社グループの使命であり、そのためには安定して事業を継続することのできる体質でなければなりません。
 セメントメーカーは石炭価格以外にも、カーボンニュートラルや物流業界の2024年問題への対応など、様々なコストアップ要因を抱えています。今後は、製品の原価や将来必要な投資の原資をベースに価格政策を立案し、あるべき価格で販売する価格決定力を持たなければなりません。また、共存共栄の観点からも、セメントメーカーだけでなくユーザーも含めたサプライチェーン全体でコストアップ分を製品価格に転嫁でき、収益を確保できる環境を構築する必要があると考えています。

2. 脱炭素リーディング工場になる

 2030年までに計3,000億円を投じて、100年先を見据えた鉱山、工場設備の強靭化を進めているほか、カーボンニュートラルの実現に向けた投資を行っています。これを機に工場は、セメント生産とともに地域の脱炭素化を先導する、まさに脱炭素リーディング工場に進化させていきます。そこでは、全国にバランスよく立地する当社工場を活用し、各地域の特性やニーズにあった廃棄物処理の高度化やDXを活用したデジタル化とともに、各地域で分離回収されたCO2も対象として、その使用や貯蔵といった脱炭素ハブを構築していくことも視野に入れています。加えて、国内13鉱山から産出する石灰石の特性にあわせた用途別の石灰石供給網の最適化も進め、ほかにはない脱炭素リーディング工場を目指していきます。

3. 多彩な事業、多方面の事業でリスク分散を図る

 今後、国内では人口が減少しセメント需要の大幅な回復は見込めません。そこで、海外事業の拡大を目指すことはもとより、国内ではセメント生産量に左右されない新しいコアビジネスの育成を進めていきます。
 資源事業においては、これまでの鉱物の知見を余すところなく活用した機能性材料や新規材料の商品化に取り組んでいます。環境事業では、車載用リチウムイオン電池や下水汚泥からの有用成分の回収といったキルン依存度の低いビジネスの拡大を進めています。一方で、福島復興のための「浪江町復興牧場プロジェクト」に参画し、廃棄物・副産物処理技術を活かした支援を行っていく計画です。

4. 人的資本に力を注ぐ

 「人はバランスシートに載らない最大の資本である」という思いは今日まで変わることなく持ち続けています。人という資本をいかに活性化させることができるか、ここにトップは一番力を注がなければならないと思っています。当社が若い人から選ばれ、長く働き続けたいと思われるためには、魅力的な会社になることが大切です。そのためにも、国籍、性別などにかかわりなく多様な個性・価値観をもった従業員がやりがいを感じながら生き生きと活躍できる職場づくりとともに、ワーク・ライフ・バランスを重視した人事制度の整備をさらに進めていきます。また、従業員の健康維持と安全を守る健康経営の推進により、一人ひとりの活力や生産性を向上させていきます。さらに、海外でも通用するグローバル人材や、セメント製造のコア技術を伝承する人材の育成にも力を注いでいきます。

セメントをつくり続け、循環経済形成も担う。
それが私たちのサステナビリティ。

 当社は2019年に日立セメント(株)と生産受委託を開始したのに続き、本年4月にはデンカ(株)のセメント販売事業を譲り受け、さらに2025年以降は生産・供給体制の最適化によって同社のセメント事業を引き継ぐ予定です。現在、国内には10以上のセメント製造会社がありますが、今後、国内セメント需要の大幅な回復が見込めないなか、事業再編によってセメント産業の構造が変化する可能性は高いと考えています。
 しかし当社は、140年ほど前に民間で初めてセメントを作った専業トップメーカーとして、「日本で必要なセメントは日本でつくる」ことを信条とし、これからもセメントを作り続けていくという覚悟をもって、100年先を見据えた鉱山や生産体制の強靭化に取り組んでいきます。
 一方、セメント産業には、インフラ整備になくてはならない重要資材をお届けするという使命に加え、地域社会や産業界との循環経済形成のキープレイヤーとしての重要な役割があります。セメント産業は、廃棄物や副産物をセメント製造の代替原燃料として有効利用しています。受け入れる廃棄物や副産物は年間で2,500万トン以上にもおよび、これは国内で循環利用される廃棄物や副産物の1割を超える規模になります。さらに、当社は都市ごみそのものやその焼却残さを受け入れ、地域へも貢献しています。
 また、当社グループは国内13カ所の石灰石鉱山から石灰石を採掘し、その5割をセメント製造用に、5割を生コンクリート用骨材や電力、鉄鋼、製紙といった多くの産業向けに供給しています。さらに、電力、鉄鋼で発生する廃棄物や副産物はセメントの代替原料として有効利用ができるため、これらの産業との循環経済が成り立っていることもセメント産業の特徴であり、まさにサステナブル・モデルであるといえます。
 今後、サステナブルな社会の形成や発展のためにも、セメント産業のあり方は日本の産業界全体の課題として捉える必要があると考えています。

ステークホルダーの皆様へ

地域に貢献する。共存共栄を目指すことが大切。

 セメント産業は国土を削らせていただいて成り立っていることを常に念頭におき、生物多様性や水資源といった環境に最大限配慮しながら、工場や鉱山の地元・地域社会との共存共栄を目指しています。
 また、セメント産業は、自然災害で発生したがれきなどの災害廃棄物をセメントの代替原燃料として受け入れることで、被災地の早期復興に貢献してきました。当社では2004年に発生した新潟県中越地震から災害廃棄物の受入処理を開始し、以来、災害の発生に備えて工場所在の地方自治体との包括連携協定を複数締結しています。さらに、2019年以降は当社セメント工場の立地がない地方自治体との包括連携協定も締結し、広域輸送、広域処理により国内各地に立地する当社セメント工場すべてで災害廃棄物の受入処理ができる体制を整えています。

当社事業をもっと知っていただくため、
皆様との親密な関係づくりに努めたい。

 当社グループの事業の根幹はセメントにあり、セメント事業を機軸として成長を続け、セメント・コンクリートのさらなる可能性を追求し、環太平洋において存在感のある企業グループを築き上げていきます。同時に、先にも述べたようにセメント産業は国土を削らせていただいて成り立っていますので、工場や鉱山の所在地域の皆様との共存共栄はきわめて大切と認識しています。事業活動を通じた環境保全、循環経済の形成、気候変動対策はもとより、SDGsとして世界共通のゴールと掲げられた人権擁護、水資源や生物多様性などへの取り組みを含め、持続可能な社会の構築に寄与することで、地球規模での社会課題の解決に力を尽くしていきます。
 ステークホルダーの皆様には、当社の事業や考え方をもっと知っていただかなければならないと考えています。また、ステークホルダーの皆様のご意見を聞かせていただく機会を充実させ、親密な関係を築けるように努力を重ねていきます。
 日本で初めてセメントが作られてから今年でおよそ150年。その当時から、当社はセメントを作り続けてきました。民間企業として最初の1トンを作った会社として、セメントが必要とされる限り私たちは作り続けます。

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