2024年度を振り返って
2024年度は業績改善により、連結ベースでは太平洋セメントが発足して以降の最高益を達成することができました。国内セメント事業において価格改定が仕組みとして浸透したことによって黒字転換したこと、米国を中心にグローバル事業が好調だったことなどが寄与し、「26中期経営計画」(26中計)の初年度として評価できる結果だと考えます。特に、当社がシェア志向から収益志向に変わったことは一番大きな成果でした。一方で、国内のセメント需要は回復が見通せない状況である中、26中計目標達成に向けて、さらなる増益対策が必要です。この結果に安心することなく、引き続き各種戦略を着実に実行していきます。
26中計の進捗
26中計は、「太平洋セメントグループの持続的な成長と企業価値の向上」を基本方針とし、「収益性の向上」「成長性の追求」を二本の柱にすえ、「グローバル戦略の更なる推進」「国内事業の再生」「サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献」を複合的に推進する「3Dアプローチ」を掲げています。経営目標として、最終年度の26年度には売上高営業利益率、ROEともに10%以上を目指しています。
グローバル戦略の更なる推進
グローバル戦略では、米国やフィリピン等の既存事業の収益基盤強化をひとつ目の戦略に掲げています。米国にある連結子会社のカルポルトランド社は、2024年12月末にグライムスロック社およびその関連会社から、カリフォルニア州ベンチュラ郡に所在する骨材および生コンの事業用資産を買収しました。今後も人口増加などを背景に旺盛な需要が見込まれる南カリフォルニアにおいて、安定的かつ高収益が期待される骨材および生コン事業のさらなる拡大を見込んでいます。フィリピンは、ベトナムからの輸出攻勢によって市場環境が悪化していますが、2025年3月からのセーフガードの発動により市況は堅調に推移する見通しです。ベトナムは内需に対して倍以上のセメント生産能力があり、熾烈な過当競争が続いていましたが、経済発展により内需も上昇基調に向かっています。コスト削減や輸出も組み合わせながら、生産量・販売量の最大化を目指します。
また、トレーディング事業の拡大に引き続き注力します。大分県の佐伯アッシュセンターにFA混合セメントの製造・出荷設備を新設することを決定し、26中計期間中での出荷開始を予定しています。これにより、混合セメントの輸出体制は年間130万トン超となり、主に東南アジアにおける混合セメントの需要取り込みを目指します。
国内事業の再生
2024年度は石炭価格の安定による原価の改善と、前中期経営計画期間からの1トンあたりトータル7,000円の値上げが奏功し、営業黒字に転換しました。価格改定の慣習が浸透し、当社はシェア志向から収益志向への転換を果たしたともいえます。これにより、今後も安定的な収益構造の構築が期待できると考えています。2026年4月出荷分以降の価格改定については未定ですが、事業環境の大きな変動要因として、2026年度から国内で本格的に導入されるCO2の排出量取引制度(GX-ETS)があります。取引価格に大きなインパクトをもたらす可能性があり、動向を見極めながら必要に応じて価格対応の準備を整える必要があります。
セメントや骨材等の営業を同じ担当者がワンストップで対応する「トータルソリューションの提供」に向けた準備も進めています。各事業部間の連携強化・効率化として、特に重複しているセメントと資源のユーザー情報を共有するプラットフォームの構築に着手しています。プラットフォーム上では、ユーザーごとの取引履歴などが把握できるようになり、セメント・資源双方の営業活動の効率化につながることが期待できます。今年度下期から稼働させ、運用の定着を図ります。
サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献
米国のパリ協定離脱表明をはじめとし、世界でカーボンニュートラル(CN)への移行が減速する傾向が見られますが、当社グループは引き続き、C2SPキルンをはじめとした各種CN技術の確立と市場導入に向けて取り組みます。この4月に政府のグリーン・トランスフォーメーション(GX)政策をふまえ総合戦略の策定・推進を担う「GX推進部」と、CO2回収技術であるC2SPキルンの設備設置を専門とする「C2SPキルンプロジェクトチーム」を新設しました。これまでの実証実験をスケールアップし、実機での実装に向けた取り組みを進めます。
もうひとつの重要施策であるDX推進は、これまで経営企画部IT企画グループが担当していましたが、独立させて「DX推進部」を新設しました。当部が主体となり、グループ会社全体の策定、DX人材の育成、DXプロジェクトの推進などをけん引していきます。工場におけるドローンでの見回りや、リモートオペレーションの導入といったスマートファクトリー化は着実に進捗しています。また、26中計期間中に450人のDX人材の育成を予定していますが、予定を上回るペースで応募があります。例えば、本社部門におけるデジタル技術を活用した業務の効率化について様々なアイデアが出されています。DXを推進し、工場・本社ともに従業員が働きやすい環境を整えていきます。
26中計・長期ビジョンの達成に向けて
26中計策定にあたっては、まず全従業員が道しるべとすべき到達点として、長期ビジョンである「2050年のありたい姿」を定めました。そこからバックキャストして策定した「太平洋ビジョン2030」は、「持続的に成長する強靱な企業グループ」となることを掲げていますが、そのためには「収益性」と「CN技術」を高める必要があると考えています。
付加価値の源泉は、高品質製品の開発や廃棄物処理などを支える技術力です。特にCN技術の確立・深化は、近い将来大きな付加価値を顧客に生み出すと考えています。それを通じて、他社との差別化を図り、高い収益を上げて、持続的な成長を目指していく所存です。
26中計の後半期間、計画の達成にあたっては、国内事業における新たな事業機会の獲得が鍵になると考えています。当社グループの収益性改善において国内事業が重要であるのはもちろんのこと、足元では、老朽化インフラや防災・強靱化関連などの社会的ニーズが高まっています。現場の人手不足などにより、官公庁に予算はあっても消化が進まないという構造的な課題が存在しています。こうした状況に対し、素材供給にとどまらず、業界全体の課題解決に向け、行政とも連携したソリューション提供に取り組むことで、需要の掘り起こしを図るとともに、社会課題の解決に貢献したいと考えています。社会インフラの維持・発展に資する企業として、企業価値の最大化に向けて挑戦を続けてまいります。