生物多様性
当社グループは、事業活動において生物多様性と最もかかわりがある石灰石鉱山を開発・操業するにあたり、地域の生態系保全と地元の振興を両立させることが重要であると考えています。鉱山の開発、操業から跡地の利用にいたるまで地元との協働により、TNFDが掲げるネイチャーポジティブの実現を目指しています。具体的には地方行政、地域社会、学識者との意見交換をふまえつつ、公鉱害の防止はもとより、生物多様性ならびに水資源の保全など、環境影響を最小化できるよう鉱山の運営に努めています。
セメントの製造は主原料である石灰石を鉱山で採掘するところからはじまり、骨材や工業原料など資源品の多くも鉱山で採掘しています。当社グループは、生物多様性保全への積極的な取り組みを重要な経営課題と位置づけ、「環境経営方針」に自然保護を掲げています。鉱山において従来実施してきた希少動植物の保全、採掘区域・跡地の緑化活動などに加え、2023年度からは環境省が推進する「生物多様性のための30by30アライアンス」ならびに「経団連自然保護協議会」に参加し、より積極的な活動を進めていきます。
当社グループの主要な石灰石鉱山はセメント工場の近くに位置しており、GCCAのガイドラインに基づき、バードライフ・インターナショナルが提供するIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)を用いて、IUCN(国際自然保護連合)が定める自然保護地域との位置関係を分析し、生物多様性評価を行っています。生物多様性価値があるとされる地域に含まれる鉱山は、行政当局の操業許可のもと、環境に配慮した採掘を実施しています。開発中や操業中は周辺環境を定期的に監視し、開発や操業による環境影響についてステークホルダーに報告することで、リスク管理に努めています。また採掘終了後の緑化などによる環境回復を含めた採掘計画を策定し、操業しています。
地域 | 鉱山数 | 面積(ha) | 該当※1 鉱山数 |
日本 | 13 | 2,835 | 2 |
米国 | 4 | 1,903 | 0 |
アジア | 2 | 617 | 0 |
回復計画のある鉱山の割合(%) | 95 |
※1 主に管理活動を通じた生息地の保全を目的とする保護地域のこと。IUCN自然保護地域カテゴリⅣ(種と生息地管理地域)に含まれる
当社グループは従来、生物多様性とかかわりがある石灰石鉱山において、採掘区域・跡地の緑化活動を進めています。採掘区域では、森林を伐採し、表土を掘削し、石灰石を採取するため、岩盤・地盤が露出し、植物相がない状態となります。その地区の中で、掘削予定がしばらくない場合は、可能な限り早期に緑化する努力を続けています。
また、生物多様性のための30by30アライアンスでは、ネイチャーポジティブの実現に向け、具体的な取り組みを進めています。
さらに、経団連自然保護協議会では、企業・団体との情報共有・情報発信などの活動を通じて、生物多様性保全のための連携を図ります。
KPI・目標 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
鉱山回復計画の策定 鉱山回復計画策定率90%以上 |
94% | 94% | 95% |

植樹祭の様子(武甲鉱山)
生物多様性保全活動
当社グループが保有する石灰石鉱山では、特に環境影響評価において保全の必要があると判断された希少種については、保護設備の設置や移植、開発作業の制限などの対策を講じています。
秩父太平洋セメント社は、希少植物の保護に精力的に取り組んでいます。群馬県多野郡神流町に位置する叶山鉱山では、地元の自然保護団体の協力を得ながら、同鉱山に自生する38種類の希少植物を鉱山内に設置した植物園に移植しています。また、埼玉県秩父市と横瀬町に位置する武甲山で採掘している同社の三輪鉱山においては、自生する68種類の希少植物を地元の専門家などの協力や当社中央研究所のバイオ技術などを活用し、保護や増殖を行っています。
また、三重太平洋鉱業社(旧イシザキ社)の藤原鉱山では、2012年から藤原岳周辺の石灰岩地域に生息する三重県指定希少野生動植物種について、専門家の意見・協力を得ながら移植や事後調査などの保全活動を行っています。

オオビランジ(叶山鉱山)

イワキンバイ(叶山鉱山)
生物多様性のための30by30アライアンスでの取り組みについて
当社グループは、2023年度に生物多様性のための30by30アライアンスに参加し、参加要件の取組事項の実施について検討を進めております。
30by30とは、2030年までに陸域・海域の30%以上を健全な生態系として保全するという目標です。2021年G7サミットにおいて、各国での達成を約束しており、さらに2022年生物多様性COP15において、昆明―モントリオール生物多様性世界枠組みに盛り込まれました。
当社鉱業部、鉱山を管理するグループ会社、中央研究所で連携し、生物多様性のための30by30アライアンスでの取り組みを推進し、30by30達成に貢献します。

「生物多様性のための30by30アライアンス」も参加要件
(以下のいずれか一つに取り組むこと)
- 所有地や所管地の国際OECM※2データベース登録を目指す
- 保護地域の拡大を目指す、拡大を支援する
- 保護地域、及び国際OECMデータベース登録を受けた(受ける見込みの)エリアの管理を支援する
- 自治体の戦略に30by30目標を取り込み、保護地域の拡大、国際OECMデータベース登録及びその管理の支援を推奨する
また、参加者は、これらの取組事項を積極的に対外発信する
※2 Other Effective area-based Conservation Measures の略称
民間などの取り組みにより保全が図られている地域や、保全を目的としない管理が結果として自然環境を守ることにも貢献している地域
水源保全
当社グループのセメント工場における水資源の利用について、将来、顕在化する可能性のある課題として水リスクの分析、水使用の状況の把握に努め、水資源の適正利用を図っています。
当社は環境経営方針に、水資源の保全・回復といった自然資本等への積極的な取り組みを重要な経営課題と位置づけて、ネイチャーポジティブの実現を目指しています。また、当社マテリアリティについて、GCCAのガイドラインに基づき水資源の管理を行うことで水源保全を図っています。
当社グループ鉱山においては、河川・湧水などの水資源の保全にも取り組んでいます。水資源保全の観点から、湧水や雨水は調整池を通し外部環境への影響を最小限に抑えてから排出されます。一部鉱山では生活用水用の井戸を掘削し、地元地域へ供給しています。
当社グループのセメント工場における水リスクをWRF※を用いて分析した結果、全工場のセメント生産量による加重の流域物理リスク評価点は2.76、最も評価点が高い工場では3.82となっています。また2024年度より流域物理リスクに焦点を当て、評価精度を見直し、環境への影響をより把握できるよう変更しています。評価点の高い工場の状況分析では喫緊の課題は見出されておらず、引き続き水資源の適正利用に努めています。
※ 世界自然保護基金(WWF)が開発した水資源の流域物理リスクや流域事業リスクを評価するツールで、評価点は最高5.0で最もリスクが大きいとされる
水使用の状況
セメント工場で使用される水の多くは機器や排気ガス、自家発電の冷却用です。工場からの排水は、これら冷却水で水質汚濁防止法上の汚水ではありません。工場内で使用する淡水は生活雑排水をのぞいてすべて循環使用し、取水量の削減と排水による水域への影響の低減に努めています。海水は臨海工場の自家発電設備の冷却に使用され、そのまま海に戻されます。
2023年度の淡水使用量は約1,038万m³で、セメント1トンを製造するのに淡水0.400m³を使用しました。この淡水は製品などの原料としてではなく、機器やガスの冷却用として蒸散したものが大部分です。
(単位:千m3)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | |
表層水 | 5,626 | 5,355 | 5,527 | 5,346 | 4,374 |
地下水 | 18,656 | 18,759 | 18,706 | 17,673 | 16,740 |
用水 | 3,325 | 3,078 | 2,108 | 1,630 | 2,289 |
淡水の総取水量(I) | 27,607 | 27,192 | 26,341 | 24,649 | 23,403 |
海水の総取水量 | 147,372 | 146,232 | 146,894 | 145,476 | 145,758 |
総取水量 | 174,979 | 173,424 | 173,235 | 170,125 | 169,161 |
淡水の総排水量(O) | 13,674 | 13,447 | 13,246 | 12,792 | 13,021 |
海水の総排水量 | 147,377 | 146,368 | 147,062 | 145,639 | 145,927 |
総排水量 | 161,051 | 159,815 | 160,308 | 158,431 | 158,948 |
淡水使用量(I-O) | 13,933 | 13,745 | 13,095 | 11,857 | 10,382 |
水資源の適正利用事例
現況では地域社会との間で水資源をめぐる特段の懸念事項はありませんが、水資源保全の観点から取水量の削減に努めています。今後も地域とのコミュニケーションを密にするとともに地域の水資源の適正利用に努めていきます。
タイヘイヨウセメントフィリピンズ社では、工場用水用に掘った井戸から地域へ上水を供給しています。また、米国のカルポルトランド社はカリフォルニア州ロッキーキャニオン骨材採石場において、場内の雨水と湧水の集水・貯蔵方法を改善した水の持続的利用のためのシステムを構築しました。これにより水源確保ができ、井戸の増設や地下水の汲み上げ量を増やすことなく、操業に必要な水の供給を維持し、厳しい規制のもと場外排水を最小限に抑えることができています。