ホームサステナビリティ新中期経営計画財務戦略

財務戦略


攻めの成長投資と株主還元を
ともに実現するため、
財務基盤を強化します

常務執行役員
伴 政浩

2023年度のふり返り

 2023年度の業績は、好調な米国事業が全体を牽引したことに加え、国内でもセメント販売価格をはじめとする各事業で値上げが浸透したことにより、営業利益と経常利益はともに大幅な増益となりました。また、2022年度に中国からの事業撤退で計上した特別損失がなくなったことによる反動もあり、親会社株主に帰属する当期純利益は433億円の黒字に転じ、前中期経営計画の最終年度である2023年度をV字回復で終えることができました。

営業利益・当期純損益および営業キャッシュ・フロー
営業利益・当期純損益および営業キャッシュ・フロー

 主力の国内セメント事業は、14億円の営業損失となりましたが、損失額は2022年度と比べ356億円縮小しました。セメント価格の値上げによって国内事業の収益性は大きく改善しています。海外は、東南アジアが市況悪化による厳しい市場環境にあるものの、好調な米国子会社の寄与で、海外セメント事業全体は342億円の営業利益となりました。フィリピンの新生産ラインなどに投資を継続する一方、業績回復による営業キャッシュ・フローの増加で財務状況も改善し、有利子負債は3,705億円と前年度比で330億円減少しました。

有利子負債およびネットDER
有利子負債およびネットDER

2024年度の見通し

 2024年度は、売上高が前年度比で737億円増収の9,600億円、営業利益は275億円増益の840億円、経常利益は240億円増益の835億円、当期純利益は187億円増益の620億円を予想しています。国内セメント事業の期初計画は、国内での需給の改善や資源分野の販売価格の上昇を追い風に黒字転換を目指し、海外も、好調の米国に加え東南アジア等の地域でも業績の改善を見込んでいます。足元では、国内、米国ともにセメント販売数量が減少してきていますが、上半期の為替相場の円安・ドル高による利益の押し上げに加え、米国でのセメント・生コンクリート価格の上昇等により、現在のところ、全体での業績予想に大きな相違はないものと考えています。海外に関しては、当面は米国依存の状況が続きそうですが、東南アジアでもタイヘイヨウセメントフィリピンズ社が新ラインでの生産を開始しており、環太平洋でグローバルに稼ぐ体制の構築を目指していきます。

PBRおよびROEの相関図(2013年度~2023年度実績に基づく)
PBRおよびROEの相関図(2013年度~2023年度実績に基づく)

23中期経営計画の総括

 2021年度から始まった23中計では、最終年度の2023年度に売上高営業利益率11%以上、自己資本当期純利益率(ROE)10%以上とする経営目標を掲げましたが、最終的にそれぞれ6.4%、8.2%となり、目標を達成することはできませんでした。経営目標達成のためのガイドラインとして設定した財務指標も厳しい結果となりましたが、売上高は7,500億円以上の目標を上回り、8,863億円への増収を達成することができました。
 23中計期間の当社を取り巻く環境は、国内でのセメント需要の減少や、原燃料などの各種コストアップが事業の重荷となりました。背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大やウクライナ情勢、天候不順によるオーストラリアでの石炭価格の高騰などがあります。一方、これらへの対応として当初計画にはなかったセメント価格の値上げを実現し、事業環境の悪化にもかかわらず、次の26中計へのしっかりとした土台をつくって23中計を終えることができたことは一定の成果であると考えています。財務戦略では、米国での資産買収やフィリピンの生産ラインリニューアル、インドネシアSBI社への資本参加など成長投資を計画的に実行したほか、安定的な株主還元を行いました。

26中期経営計画の財務戦略

経営目標の達成を通じたPBRの改善

 今年度からスタートした26中計では、経営目標として2026年度の売上高営業利益率とROEをともに10%以上とする計画を掲げています。ROEを算出する数式は売上高純利益率、総資産回転率、財務レバレッジに分解できますが、装置産業である当社は固定資産の比率が高く、総資産回転率と財務レバレッジの変動は大きくありません。ROEとの相関性が高い純利益率は、営業利益率と連動しているため、経営指標では営業利益率の目標によって収益性の改善を掲げています。目標達成のガイドラインとして、売上高1兆円以上、営業利益1,000億円以上という数値も設定しました。セメント価格の値上げにより利益率を高め国内事業を再生させるとともに、海外でも米国を中心としながら東南アジアへの展開でも稼ぐ体制を構築するグローバル戦略により、目標達成のための施策を進めていきます。
 26中計の推進は株価純資産倍率(PBR)1倍超の早期実現にもつながります。2023年からPBR1倍割れの解消について投資家や経営者の関心が高まり、当社も昨年は0.6倍台で推移していた時期もありましたが、8月のブラックマンデーを超える株式大暴落前の時点で0.8倍超まで改善しました。この間は株式相場全体の押し上げに加え、当社の取り組みとしても自社株買いの実施やセメント価格の値上げが株価上昇に寄与したとみています。セメントは製造工程で多くのCO2を排出するため、近年は気候変動へのマイナスイメージも株価に影響していましたが、足元では混合セメントの活用など中期的なカーボンニュートラルへの取り組みに対する評価も進み、これもPBR改善の一因になったと推測しています。
 理論上はROEが資本コストを上回ることでPBRが1倍超となります。当社の場合は、過去のデータの分析から、ROEが10%以上でPBRも1倍を超えることが見込まれます。まずは、カーボンニュートラルに関する情報発信等を通じ当社の事業をご理解いただき、資本コストを下げるよう努めます。さらに、利益率を改善する施策でROEを10%以上の水準にしていくことで、26中計の目標達成とともに1倍を上回るPBRを実現できると考えています。

キャッシュ・アロケーションおよび重点戦略

 26中計では、キャッシュ・アロケーションの前提として、2026年度までの3カ年の累計で4,000億円の営業キャッシュ・フローを見込んでいます。うち1,500億円は、成長投資として米国市場での混合セメント販売拡大、カーボンニュートラルの開発などに充当します。また、事業基盤の強化に向けた重点戦略として、200億円を大型主機の更新など工場設備の強靭化、500億円を鉱山強靭化のため新津久見鉱山(大分県)と黒姫山山頂開発(新潟県)に充てる計画です。さらに、通常の維持投資にも1,400億円が必要になります。近年は投資案件の単価も上昇しており、財務戦略の観点からは、成長投資に際して最適なファイナンスを選択することが重要です。ここ数年は超低金利の日本円で資金調達して海外へ投資することもできましたが、今後は金融市場も「金利ある世界」となり、地域ごとに現地の金利に見合った投資と回収を計画する考え方が再び必要になります。
 セメント価格の適正化も引き続き重点戦略です。2022年に1トンあたり計5,000円増の価格改定を実施しましたが、今年も5月に2025年4月からの2,000円の値上げを発表しました。当社では適正価格について、セメントをつくり販売してえたお金で固定費を回収し、株主還元と将来への投資を実施するサイクルを回すことができる水準と捉えています。セメント業界は景況感の影響を受けやすいセクターですが、事業環境が変化しても安定した利益を稼ぐことができる会社として評価されるためには、適正なセメント価格の実現が欠かせません。2023年度に実績をつくったことで、値上げの1年前に予告して交渉を進めるという流れもできましたので、今後もプロセスも含め価格改定が一般化していけば良いと思います。
 カーボンニュートラルも重要戦略ですが、より長期的なビジョンを見据え、26中計の3年間はまず技術開発を進めることになります。CO2回収、CCU、CCS等の技術的なコストの試算も行っていますが、C2SPキルンに必要な酸素やメタネーションに必要な水素のコストの影響も大きく、自社だけでなく他社の技術開発が進むことも、カーボンニュートラルには必要なことだと考えています。我々は2050年のカーボンニュートラルに向けて、混合セメント化の推進、低CO2セメントの開発等の漸進的アプローチのほか、セメント製造子会社であるデイ・シイ社のカーボンニュートラルモデル工場化を実現することで自社の革新技術の事業化を進めていきます。

海外売上高・比率

ROICの導入と浸透

 26中計ではガイドラインに投下資本利益率(ROIC)7%以上を掲げました。ROICは投下した資本に対してどれくらいの利益があったのかを測る指標ですので、当社のように投資規模が大きい装置産業では非常に重要な意味をもちます。26中計ではまず全社のガイドラインとしてROICを設定しましたが、将来的には事業別や事業を超えた枠組みでも導入を目指して体制を整備していくことになります。
 現在、当社では国内でセメント事業、資源事業、環境事業が別々に事業活動を展開しています。しかしながら、実際のビジネス・スキームは、セメント事業が資源事業から主原料である石灰石を購入したり、環境事業がセメント製造設備を利用していたりと、内部取引や固定資産、人的資本で密接な関係があり、各事業は三位一体でビジネスを展開しています。前年度は赤字だった国内セメント事業も資源事業と環境事業にとっては必要不可欠な事業であり、3つの事業をトータルで考えないと真の実力を測ることはできません。鉱山開発はまさにセメントと資源の両事業にとって利益の源泉となる案件ですので、投資効果をしっかり示すためにも26中計のガイドラインであるROIC管理を浸透させていきたいと考えています。

財務戦略

 事業拡大のための成長投資に加え、大規模な生産設備を保有する当社では、維持更新のための継続的な設備投資が欠かせません。安定的な資金調達で経営を支えるためにも、財務戦略では発行体格付のA格を維持することが必須と考えています。今年度はJCRの発行体格付がA+、R&IではAを取得し、ともに前年度から向上しました。格付向上は、有利子負債の削減が進んだことに加え、ここでもセメント価格の値上げ実現を通じて利益確保と財務改善の手段をもつ会社であることを格付機関にご理解いただいたことが大きいと思います。財務の健全性を測るうえで重視しているネットDERは、足元で26中計ガイドラインの0.5倍近辺となっています。今後、投資案件によっては短期的に上昇することもありえますが、A格を維持するため、1~2年で0.5倍程度の水準に戻す施策が取れる体制を整備しています。例えば金融子会社の太平洋フィナンシャル・アンド・アカウンティング社ではグループ内の余剰資金を融通し合う仕組みも構築しており、今後は対象とする通貨を増やすことも検討して外部資金に頼りすぎない財務体質をつくり上げていきます。

株主還元

 26中計では総還元性向33%以上の株主還元を実施する計画です。還元策としては、1株あたり年間80円以上の配当金に加え、機動的な自己株式の取得を実行していきます。23中計では、当期純損失を計上した2022年度を含め、3期にわたり年間配当金70円を継続して実施することができました。26中計の初年度となる2024年度は、年間で前年度比10円増の80円の配当を計画しています。安心して当社株式を保有いただくためにも、投資家の皆様との約束である配当計画を確実に実施するとともに、株価の変動も加味したTSR(株主総利回り)も意識した企業価値の向上に取り組みます。

ステークホルダーとの対話

 機関投資家をはじめとするステークホルダーの皆様との対話の機会を増やすため、通常の決算に関する説明会等に加えて、社長・副社長が出席する面談も積極的に実施しています。また、社外取締役面談も開催する予定です。サステナビリティの情報発信も強化しているほか、当社株式は海外投資家の保有比率が高いため、海外でのIR活動にも注力していきます。個人投資家の株主も増やしたいと考えており、知名度向上の戦略も検討を始めています。

TSR(株主総利回り)の推移

TSR(Total Shareholder Return)
株式投資によりえられた収益(主に配当とキャピタルゲイン)を株価(投資額)で割った比率を示しており、株主にとっての総合投資利回りを表します。2018年3月末終値で投資した場合の各年度末(3月末日)終値で算出しています。

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